「手壊し解体(人力解体)」の特徴と費用について

解体工事といえば、ユンボやダンプ・クレーンなどといった“大きな重機で建物を大胆に壊していく様子”を想像される方が多いのではないでしょうか?

しかし実際の現場では、細かな手作業を要するような作業も少なくありません。中には「人力のみ」で整地までの全ての作業を完了しなければならないケースも存在します。

こういった「人力のみ」での解体手法を「手壊し(手毀し)解体・人力解体」と呼びますが、重機を使った解体工事に比べると、より多くの時間や費用が必要です。

今回はそんな手壊し解体について、かかる費用や時間・工法の特徴、メリットなどをご紹介していきます。

「手壊し解体」が必要になるケースは?

一般的な重機解体が可能かどうかの判断基準として「解体物件付近まで2t車や4t車が進入できるか」という点がありますが、そうしたポイント以外にも手壊し解体を選択せざるを得ないようなケースがありますので、ここでいくつかご紹介してみたいと思います。

解体する建物が、車のすれ違いが困難なほど狭い(2m以下)道路の前に建っている

一般的な住宅の解体工事に使用される重機(ユンボ等)の幅は、大抵2m前後です。

つまり、解体物件に面する道路の幅がその重機の幅よりも狭い(=2m以下である)場合、物理的に進入が困難となってしまいます。また、仮にギリギリ2mの幅があったとしても、途中に道路へ突出した電柱や鋭角の曲がり角などがある場合も同様に重機の乗り入れが困難であるため、手壊し解体となる可能性が高くなります。

※物件の構造や周囲の状況によっては、あらかじめ周囲の塀や壁の一部を壊しておき ある程度のスペースを確保することで、小型重機程度なら乗り入れ可能となるケースもあります。

解体する建物が、奥まった場所や道路と高低差のある場所に建っている(丘の上、半地下、袋小路の先端等)

道路幅の問題はクリアできたとしても、解体物件が袋小路の突き当りに建っているケースでは、小回りのきかない重機の進入が難しくなります。そうなるとやはり重機での解体は断念せざるを得ません。

また同様に、解体物件の建っている敷地が隣接道路よりも高い/低いケースでも、重機の乗り入れが難しい場合がほとんどです。

進入経路に十分な幅があり、なおかつ緩やかな傾斜となっていれば問題ないこともありますが、通路が狭く階段状になっているなど 明らかに車両の通行を考えて作られていない場合はやはり重機の使用を諦めざるを得ないでしょう(傾斜が緩ければ鉄板を敷いて半ば強引に斜面を作り出すこともありますが、安全面を優先して手壊し解体となるケースが多いと思われます)。

※高低差があっても、道幅や段差の問題はなく周囲に広い敷地があればクレーンを使用して解体重機を吊り上げるという手もあります。

このように個々の立地条件によって使える手段が変わってきますので、解体方法の「予想」はできても、実際に見積もりを取るまで確実なことは分からないとお考えください。

解体物件が人通りや交通量が多い場所にある(商店街の中、幹線道路沿い等)

残念ながら、「道路幅・地形のいずれにも問題がなければ重機解体は可能である」とは必ずしも言い切れません。

例えば、商店街・繁華街など常に一定の人通りがある場所や、交通量の多い幹線道路沿いに解体したい物件が建っている場合、手壊し解体を選択しなければならない可能性があります。

商店街や幹線道路でも、周囲が比較的余裕のある地形であれば“交通の流れを一部止めるだけ”で済むこともあります(※)。しかし、重機やトラックが停車することによって道を完全に塞いでしまう・渋滞を起こすなど、解体工事のために周囲の交通をストップしたことによって多大な影響を及ぼす可能性が高いのであれば、手壊し解体を選ぶより他ないでしょう。
(※警察署で道路占有使用許可申請を行う必要があります。)

かかる時間はどれくらい?

重機を最大限使った場合を基準にすると、同じ作業を全て手壊しによって行うとなれば最低でも2倍の時間はかかると考えていただいて良いでしょう。

具体的には、着工~完工まで重機併用で1週間から10日程度だとして、同様の規模の工事でも手壊しだけでは単純計算で2週間から20日もの期間を要することになります。

もちろん作業員の増員によってこの時間を短縮することは可能ですが、全体的な費用のバランスを考えた時に、重機を使った場合と同じ工期で完工できるほどの人員を投入することはあまり現実的とは言えないでしょう。

費用はどれくらい?

重機を利用できる一般的な解体工事と比較して、費用はおおよそ2倍ないし3倍となるケースが多いです。

もちろん細かな条件によって金額は前後しますが、あまりに特殊な現場を除き、大抵の場合は上記の範囲に収まるとお考えいただいて良いでしょう。

それでは、なぜ「手壊し解体」を行うと費用が上がってしまうのでしょうか。その理由を紐解いていきます。

手壊し解体が割高になる理由

1.解体作業自体に時間がかかる
前項で述べた通り、手壊し解体は通常の重機解体よりも多くの時間を要します。
時間がかかるということは、作業員一人あたりにかかる人件費も当然それなりに膨らみます。しかし手壊しで行える作業のスピードには限界があり、かといってギリギリの工期を設定することで作業員の安全確保が疎かにしては本末転倒になってしまいます。
この「時間」を大きく削ることはなかなか難しいため、最も費用が上がりやすい要因の一つとなっているのです。

2.廃棄物の運搬にも時間がかかる
解体作業によって発生する廃材(廃棄物)。通常は重機で運び出してから分別した上でトラックに積み込みますが、そもそも重機が入れない現場では、運搬のためのトラックの乗り入れさえ難しいことが少なくありません。
そうした場合はやはり「人の手で」全てを運び出す必要があるため、ここでも人員と時間がかかってしまうのです。

3.人手を要する=人員管理の手間も増える
1.や2.のような時間のかかる作業には、可能な限り人員を増やして対応するというのが自然な流れですよね。
しかし、ただ人員を2倍にすれば相対的に期間が半分になるかと言うと、そう単純な話ではありません。現場に対して管理するべき作業員が増えれば、一人一人の安全に関して更に注意深くなる必要があり、管理費等も膨らみがちになります。
「単に人件費だけが増える」だけでは済まないため、全体の費用が大きくなりやすいのです。

小型重機(ミニユンボ)が入れば費用を抑えられる!

大きな重機が入らないからといって、コストダウンを諦めてしまうのはまだ早いです!

重機の中にも種類があり、例えばミニユンボなら車幅が80cm程度のものから最大でも1.5mほどに収まるコンパクトサイズので、これを使うことが出来れば、たとえ2mに届かないような道路でも 一部重機を使って解体作業を進めることが可能となります。

もちろん大きなユンボよりもパワーは劣りますが、それでも「完全な手壊し」による解体工事よりは確実に費用を抑えることができます。

袋小路や道路との高低差など 他に複雑な条件がある場合は厳しいものの、“道幅がやや狭い”ことだけがネックである場合、こうした「小型重機を所有しているかどうか」というポイントを解体業者選びの基準に加えてみてください。

「手壊し解体」のメリットは?

解体工事に重機を使えないとなると、どうしてもデメリットばかりが頭に浮かんできますが、実は手壊しならではのメリットもあるのです。

粉塵や騒音・振動を最小限に抑えることができる

周囲への影響を最小限に留めることができるという点は、手壊し解体における利点の一つです。

重機を使用した解体工事によって発生する粉塵や騒音は、たとえ養生シートや散水で対策を行ったとしても“100%防ぐ”ことは難しいものです。

中には音や振動に敏感な方・心配性の方もいらっしゃいます。一般的には気にならない程度の振動であっても常に工事のことが気になってしまい、日常生活に支障が出るほどの影響を受けてしまうのです。

手壊し解体でもチェーンソーなど機械の稼動音や壁を壊す際の打撃音は発生しますが、やはり重機解体によって発生する騒音とは比べものにならないでしょうし(隣で新築工事が行われている程度の騒音、と考えていただければ分かりやすいと思います)、何より「突風などによっていきなり重機が倒れてくるのでは?」といった心配も不要になりますので、不安に駆られがちな方でも比較的安心できるはずです。

解体工事における悩みの種の一つ、「近隣トラブル」の可能性をぐっと減らすことができるというのは、大きなメリットではないでしょうか。

重機では出来ない細かな作業、丁寧で安全な作業が可能になる

重機解体で起こり得るトラブルとして「重機で隣家の壁や車を傷つけてしまった」というものがあります。

解体重機は人間の持つ力の何十倍というパワーで動く機械だからこそ、「少し誤っただけ」で甚大な被害を及ぼしてしまう可能性がありますが、人間ひとりの持てる力で慎重に解体していく手壊し解体の現場では、まず発生することのないトラブルになるでしょう。

同時に、TVニュースなどで稀に耳にする「作業員が機械の下敷きに~」といった悲劇とも無縁になりますので、現場の作業員の方々にとってもメリットがあると言えます。

長屋の解体工事には手壊しが最適!

長屋とは、「玄関や階段・廊下を共用していない2戸以上の住宅が連続している建物」のことを指します。特に東京都内や大阪市内の下町と呼ばれる地域などに多く、今でもたくさんの長屋が建っています。

形状を想像していただければお分かりになると思いますが、長屋の一番の特徴は、家の大事な骨格である「壁」を世帯の異なる2戸で共有しているということです。このうち1戸だけを解体するとなると、残す側の建物に対し壁などの補修が必要になり、工事にも一層の慎重さを要します。

この「長屋切り離し工事」はどんな解体業者でも施工できる工事ではなく、経験や熟練度・スキルが非常に重要となってきます。「長屋の解体経験のない業者さんに依頼したら断られてしまった」、というケースも珍しくありません。

そこまで慎重を要するだけに、当然 重機で豪快に壊していくわけにはいきませんよね。そこで、手壊し解体の特性が最大限に生きてくるのです。

重機解体では衝撃の大きい作業も、手作業で少しずつ壊していくことによって振動・粉塵の発生を抑制でき、騒音もある程度コントロールできます。そうして、解体中も壁ひとつ隔てた向こうで暮らし続ける隣家に対し、迷惑を最小限にとどめることが可能となります。

【関連ページ:長屋の切り離し解体で起きたトラブルと予防策】

手壊し解体の工法と使用する工具

そもそも「手壊し」という工法自体は特別なものではありません。

重機が入れるような一般的な解体現場でも、必ず「手壊し」を要する場面があるからです。

なぜかと言うと、2002年(平成14年)に建設リサイクル法が施行されたことにより「分別解体」が義務付けられましたが、これによって「ミンチ解体(廃材の分別を考えず、重機でとにかく建物を潰すように取り壊す手法)」が正式にタブーとなりました。

そのため、ある程度分別しながら解体作業を進めることが必須となり、大枠は重機に頼りながらも最終的には人の手で、という「重機併用手壊し工法」が現代では主流になっています。

下に紹介するのは、そうした「通常の解体工事」の場合にも用いられる手壊し用の工具たちです。

・バール
→全国の解体業者に広く使われている、棒状で片方に釘抜き用の割り込みがあり、もう片方は平らなヘラ状になっている工具です。

・バチ(解体バチ)
→主に関西地方の解体業者が使用する工具。農耕に使われる鍬(くわ)のような形をしたもの、バールに近いシンプルな形のものがあります。直接手で持って、壁などを壊すために用いられます。

・ハンマー
→主に石膏ボードの内壁や土壁などを破壊するために使用されます。

・チェーンソー
→主に柱の切断に使用されます。

・ネコ(一輪車)
→廃材を運搬するための手押し車です。廃材は最終的にトラックで処理場まで運搬されますが、そのトラックに積み込むために一旦ネコで運び出す必要があります。

コラム:なぜ「ネコ(猫)」と呼ばれるの?

一説では、「ねこ足場(キャットウォーク=猫が1匹通れる程度の面積しかない、板を渡しただけの狭い足場)」を通るのにこの手押し車が使われていたから、と言われています。
手壊しのみで解体作業を進める完全人力解体の場合は、これらの工具と人員をフル稼働させた、言わば“人海戦術”で地道に取り壊していくことになります。

まとめ

手壊し解体を選択する理由は様々ですが、時間も費用もかかるこの工法を「最初から望んでいた」というケースはほとんどないのではないでしょうか。

重機を使用した解体工事はスピーディかつ安価で済みますし、出来ることならやはりそちらを選びたいものですよね。

しかし、複雑な地形の多い日本では今回ご紹介したように「重機が使えないケース」も少なくないのが現実です。

そして手壊し解体では、通常の解体工事よりも更なる技術や配慮を必要としますので、解体業者の選択がより重要な意味を持つことになります。

解体サポートでは、「重機解体を想定していたものの、調べてみると手壊し解体になる可能性が高そうで困っている」という方のご相談にもお応えしています。また、必要であれば手壊し解体が得意な熟練の解体業者さんをご紹介することもできますので、お悩みの方はぜひお気軽にお問い合わせください。